紫陽花が泣く頃に



「話せた?」

柴田の問いかけに、目を開けた。

「うん。一方的にだけど」
 
「そうだよね。私も」

柴田はどんな話をしたんだろう。その瞳が潤んでいるから、俺と同じで美憂を恋しく思っている気持ちをぶつけたのかもしれない。

「……美憂は、私たちのことをどう思ってるだろうね」

美憂の気持ちは、もう想像でしか語れない。それをもどかしく感じている間は、やっぱり背筋を伸ばして生きることは難しいと思ってる。

「小暮くん、和香」

と、その時、俺たちを呼ぶ声がした。襖から顔を出していたのは、律子さんだった。

「こっちに座ってお茶でも飲まない? すぐに用意するわ」

律子さんの計らいで、俺たちはまたリビングに戻る。律子さんは暖かい紅茶とフロランタンを出してくれた。

「小暮くん、この前は本当にありがとうね。小暮くんがいなかったら今頃和香はどうなっていたか……」

「いえ、俺も大きな事故にならなくてよかったです」

「ケガの具合はどう?」

「もうすっかり元気です」

「なにかあったら遠慮なく言ってね」

「はい」

そんな会話の横で、柴田はフロランタンを黙々と食べていた。クッキー生地にナッツとキャラメルがかかったお菓子は、まるで宝石みたいに光っている。驚くことに、律子さんの手作りだそうだ。

「柴田もこういうの作れんの?」

「まあ、レシピを見れば」

「へえ、すげえな」

「どうせ私がお菓子を作るなんて〝らしくない〟と思ってるんでしょ?」

「いや、思ってないよ」

「いや、思ってる顔してた」

柴田は本当にああいえばこう言う。律子さんは俺たちの会話を聞いて笑っていた。