「小暮くん」
病室を出てエレベーターを待っていると、美憂の母親である律子さんに会った。
「こんにちは」
律子さんとは、美憂の入院生活がはじまってから頻繁に顔を合わせるようになった。
「いつもお見舞いに来てくれてありがとね。このあと少し時間ある?」
「え、あ、はい」
同じ階にある休憩スペースに移動すると、律子さんは俺に飲み物を買ってくれた。
「どうぞ」
「すみません。いただきます」
美憂の口から家族のことは色々と聞いていたけれど、やっぱり律子さんとふたりきりになるのは緊張する。
「美憂ってばね、家ではいつも小暮くんの話ばかりをしてたのよ」
初対面の時も、律子さんは俺のことを美憂の彼氏だと認識していた。そのおかげもあって、気兼ねなく俺は美憂の病室を訪ねることができている。
「小暮くんと付き合うようになってから、美憂は毎日楽しそうにしてたわ」
「俺も美憂さんからたくさんの楽しいことも教えてもらってます」
「ふふふ」
律子さんは背が高くてカッコいい女性だけど、笑うと目尻が下がって美憂と似ていた。
美憂の着替えは律子さんが運んでくる。その中には、美憂がいつも使ってるものや、必要だと思うものが的確に入っている。
とても大切に育てられていることは美憂を見ていればわかることだけど、律子さんと会ってからは、ますますそれを感じるようになった。