「あ、ありがとうございます。」

香世は俺のそんな気持ちなど知るよしもなく
カステラを綺麗に包丁で等分に切り分ける
その手元でさえ綺麗で、見入ってしまう。

お盆に2人分のカステラと湯呑みを乗せ、
香世が注意深く歩く。

危なっかしいと心配になりお盆に手を伸ばすが、
「大丈夫です。」
と、拒まれる。

「正臣様は…台所に入る事に躊躇しないのですね…。」

「どう言う事だ?」
心意が変わらず聞き返す。

「我が家では、男子は台所に入るなと父の
教えでしたから。」

「そう言う事か。
それは祖父母から良く言われたな。
ただ、言われた所で従う様な素直な子供では無かった。」

ふふっと花が可愛く笑う。
「分かる様な気がします。」

「こうあるべきだと言われる事が煩わしくて、3年前から家を出てこの家で生活している。」