香世が俺に笑いかけてくれた。

ただ、それだけで不思議と穏やかな気持ちになる。

運転手の前田が話しかけてくる。
「お2人、仲良くやってるようで安心しました。」

「まだ、そこまででは無い…。」

俺からしたら、香世はまだ遠慮だらけで
心の隙さえ見せてはくれない。

だからか、時折り見せる笑顔にどれだけ救われるか…。

香世との心の距離を縮めたいと自分を出来る限り曝け出し、弱い所も隠さず話すようにすると、少しだけ歩み寄ってくれた気がした。

しかし…

今朝、外から聞こえる話し声に胸騒ぎがして
2階の窓から外を見ると、
香世と知らぬ男が話している姿が見えた。

香世が笑顔で話している…

もしかしたら香世の想い人なのかと、
目の前が真っ暗になるほど衝撃を受けた。

聞けばそれほど深い関係では無くて少しホッとしたが…。

心が騒つき気が焦る。

気持ちを抑える事が出来ず衝動的に抱きしめてしまう。

これでは駄目だと分かっているのに…。