「正臣様、私は…父に退陣して貰いたく思います。
お給金を未納されても未だ働いてくれている社員の為にも、新しい方に立て直して頂く事が会社にとって良い事だと思います。」
父が憎いからでは無く、会社の事を1番に考えた答えだった。
正臣は嬉しそうに微笑む。
「さすが香世だ。
見も知らない社員の事を思って決めたのだな。消して悪いようにはしない。
お父上にはカタチだけの会長の座を残して置き、月々の給金は入るようにする。
香世の家族の生活の維持は心配しないで欲しい。」
「何から何までありがとうございます。」
香世は正臣の笑顔に、信じられないものを見た思いを抱きながら頭を下げてお礼をした。
「また細かい事が決まったら話をするから、香世が必ず納得のいく様にして欲しい。」
「はい…。
正臣様は何故?
そこまで私の為にご尽力いただけるのですか?」
会ってから何度も聞いているのだが、
未だにちゃんとした解答を貰えていない質問をもう一度してみる。
「香世が思い出してくれないと何も言えない。」
意地悪な顔をしてそう言われた。
香世はまだ思い出せないでいる正臣との出会いを、
一生懸命思い出そうとするのだがまったくと言っていい程何も浮かんで来ないでいる。
「何か手掛かりだけでも教えて頂けませんか?」
そう聞いてみるが、
「駄目だ、自分で思い出せ。」
と、冷たく突き放す。
正臣は香世が自分の事をずっと考えてくれている事に、満足して嬉しく思ってしまうのだ。



