正臣と向かい合って座ると香世は急に緊張してくる。

これではまるでデートのように、
見られてしまうのでは無いかと恥ずかしくなってくる。

給仕の人からメニューを渡されて思わず顔を隠してしまう。

「香世は何にするんだ?」
正臣から聞かれてハッとする。

「えっと…、正臣様は何になさいますか?」

頭が真っ白で何も浮かばない香世は、
メニューで顔を隠したまま正臣に聞き返す。

「俺はハンバーグステーキにしようと思うが…」

正臣からメニューをパッと取られて香世は驚く。

「何故、顔を隠す?」
怪訝な顔の正臣が香世を見据える。

「あの……
私がここに居るのは場違いでは無いかと思って…。」

「場違いなものか。
元々、香世はここに来た事があるのであろう。ならばもっと堂々としていろ。」
そう言われておずおずと正臣に視線を合わせる。

「今の私には不似合いです。
出来れば女中のように扱って頂きたいのですが…。」
香世は思わず、ずっと思っていた違和感を口にする。

「自分で自分を卑下するな。
香世はそんなに俺が嫌か?」

「そんな事…滅相もありません。
こんなに良くして頂いて感謝しかありません。」

「では、もっと普通でいろ。」
不機嫌そうに正臣が言う。

「で、何を食べたい?」

正臣がそう聞いてくる。

こう言う時、父なら勝手に同じ物に決められてしまうのに…。

ずっと食べてみたかった物を食べていいのだろうか…。

少しの間考えて、
「オムライスが食べたいです。」
と、香世が小さく言う。

正臣は分かったと頷き、給仕の人に2人分頼んでくれる。