車が走り出し、
小さくなって行く真子の姿を振り返り、
香世は少し涙する。

「酷なようだが、これが真子にとって一番最善なんだ。許せ。」

正臣が謝ってくるので香世は慌てて首を振り、

「正臣様は、正しい事をしておられます。
何の非もございません。」
と、頭を下げる。

「夕飯を食べて帰る。」

正臣がおもむろにそう言って、
着いたのは街角の洋食屋さんだった。

「懐かしい…。」

香世はたまらず言葉を洩らす。

「以前にも来た事が?」

「まだ母が元気な頃は良く連れて行って貰いました。」
懐かしい幸せだった頃を思い出す。

「そうか。香世の母上は病気で亡くなったのか?」

「はい…元々身体が弱い人でしたので、
それに今の生活を見たらきっと、
母は耐えられなかったと思います。
幸せな頃に生きられて良かったのだと、
今は思います。」

生粋のお嬢様だった母が今の質素な生活に耐えられる訳が無い。
母は何も知らず幸せな一生だったのだと思いたい。

お店に入って久しぶりに贅沢な雰囲気に圧倒される。