「香世様、失礼致します。
旦那様がお戻りになられますので早めにお昼をお食べ下さい。その後お着物を着替えて頂きます。
真子様もお着替えをしましょう。」

タマキからそう言われるが香世は困ってしまう。

花街には以前の着物は不要だろうと、
今、着てる着物以外はもう1着しか持って来ていなかった。

真子ちゃんも私物の服は今のものしか無く、しかも既にたけが短くなっている。

「あの…、私達、着替えをそれほど多く持って来ていません。」

恥ずかしい事だが、隠しても仕方がないと、ありのままを話す。

「大丈夫です。
昨夜のうちに旦那様からとりあえずの着物を用意するように言われていましたから、
真子様はウチの娘のお古で申し訳ないのですが、
香世様のは奥様が着なくなった物がこちらに置いてありますので、そちらを。」

「…奥様…。」

「あっ!旦那様の母上ですよ。
旦那様は独り身ですのでご心配なさず。
おモテになられるのに、
そう言う事には不器用な方なんです。
だから、香世様が来てくださってとても嬉しいんですよ。」
タマキさんはにこりと笑って昼の準備をする。

「あの、私も手伝います。」
私も慌てて立ち上がる。

「香世様、旦那様からくれぐれも香世様には家事をさせないようにと言われています。
私達が怒られてしまいますから、
香世様はお座りになってお待ち下さい。」

そう言われてしまうと何も手出し出来ない。

どうした事かと真子ちゃんと目を合わせる。

「きっと、二階堂様は姉さんの事を気に入ってるんだよ。お嫁さんにしてくれるといいね。」
真子ちゃんがコソコソと耳打ちする。

「でも、私、二階堂様とは昨日初めて会ったばかりなの。」
困り顔で返事をする。

本当に分からない…

正臣様の言い方だと、
どこかで会っているようだけどまったく思い出せない。

あんなに綺麗なお顔の男性に会っていたら
きっと忘れないと思うのだけど…。