玄関でお見送りしながら考える。

今のは、何だったの?

頭をポンポンと撫ぜられた事に驚きを隠せない。
私の事は真子ちゃんと同じ子供だと思ってるのかしら?
 
多分…そうね……

妻になれとは言われたけれど、 
きっと揶揄っているだけなのね。

そう思う事で気持ちを立て直そうとする。

昨夜の事もあって、どうしても正臣様の近くにいると意識してしまう。
ドキドキと高鳴る胸を抑える事も上手く出来無いでいた。

「香世姉さん、うち、自分の名前書いてみたい。」
ぴょんぴょん跳ねながら真子ちゃんが言ってくる。

とても嬉しそうで私も嬉しくなる。

早速部屋に戻って、タマキさんに鉛筆と紙を貰う。
真子ちゃんの名前を大きめに平仮名で書いてみる。

「うわー!!」
と言って真子ちゃんが喜ぶ。

隣に真似て書くように言うと、一生懸命に書き出す。
鉛筆の持ち方や角度を直してあげると、
それだけで喜んでくれるから、
教え甲斐のある良い生徒だった。

午前中は真子ちゃんに平仮名や数字の書き方を教えて過ごす。

「小学校では他に何を学ぶの?」
無邪気に真子ちゃんが聞いてくる。

「音楽や、運動なんかもやるよ。後はそろばんも教えてくれるよ。」

「うち、音楽がいい。どんな歌を習うの?」

「尋常小学校で初めに習ったのは、『ちょうちょ』とか『桜』とかだったかな。」

「どんな歌?」

「さくら〜さくら〜今宵の空に〜」
歌詞を平仮名で書きながら歌う。