冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

「旦那様、夕食の支度が整いました。」

女中が廊下から声をかけてくる。

香世はハッと我に返り、慌てて二階堂から離れた所に座り直し姿勢を正す。

「香世様、本日はカレイの煮付けでございます。お口に合うと良いのですが。」
タマキがにこやかに入って来て、
二階堂と向かい合った所に膳が運ばれる。

香世は出来れば横並びで食べたかったと思ってしまう。

どうしたって二階堂が目に入ってしまうし、
見てしまうと心臓が高鳴って緊張してしまう。
「お気遣いありがとうございます。」

タマキの優しい笑顔につられて香世も微笑む。

二階堂は密かに衝撃を受けていた。

香世が笑った…

3年前も今も笑顔を見た事が無かった。

俺が見たくて仕方なかった香世の微笑む姿を、タマキは何の事無く引き出した。

ああ、相手が笑えば香世も笑ってくれるのか…。
そんな簡単な事さえ俺には難しい。
と、二階堂は思う。

「暖かいお茶もお持ちしましたので、
火傷しないように気を付けて下さいね。」

「はい。ありがとうございます。」

2人、手を合わせてから食べ始める。

香世は二階堂が箸を付けるのを待って、
伺いながら食べ始める。

真子ちゃんもきっと食べたかっただろうなと思う。弟の龍一も煮魚が大好きだった…

「真子の事だが…。」

食べながら二階堂が話し始める。

香世の家では食事中は余り話してはいけなかったのだが、二階堂家では問題無いらしい。

「はい。」

「家では子供を働かす訳にはいかない。
そこで考えたのだが、
近くの寺で孤児院を開いている。
そこで預かってもらいながら学校に出すのが
1番良いのではと思うのだが。」