冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

玄関には女中が3人並んで待っていた。
「お帰りなさいませ。
お勤めご苦労様でございました。」

香世と同じぐらいの歳の女中が1人、
もう1人は姉ぐらいだろうか…、
もう1人は初老で白髪の女中だった。

「この子に布団を頼む。」
二階堂が靴を脱ぎ部屋に入って行く。

香世は少し戸惑い玄関で足を止める。
「香世も早く上がれ、外は寒い。」

二階堂が真子を抱きながら振り返り香世に声をかける。

「お邪魔致します。」
おずおずと草履を脱ぎ揃えて隅の方へそっと置く。

2人の女中は何も言わず、ただ怪訝な顔で香世を見ていた。
歓迎されていない事が一目で分かる。

香世は居場所の無い思いで玄関に佇む。

「キヨさん、タカちゃん夕食の支度を早く。
2膳分お願いね。」
白髪の女性は布団を敷き終えたのか、
廊下を足早に歩いてやってくる。

「香世様、そんな寒い所にいらっしゃらないで、どうぞこちらにおいで下さい。」
白髪の女性が暖かい部屋に香世を通してくれる。

「若い女中が気が利かなくて…申し訳けありません。
私はタマキと申します。
旦那様がお小さい頃から仕えてる者です。
お話しは伺っておりますので、ご自分の家だと思ってお寛ぎ下さいませ。」

タマキは正座して丁寧にお辞儀をしてくれる。

香世も手を揃え、
「樋口香世と申します。よろしくお願い致します。」
と、緊張気味に挨拶をして頭を下げる。

タマキはにこりと微笑み、

「旦那様が女性を連れて来たのは初めてでございますので、女中もびっくりしたのだと思われます。」

先程の玄関での女中の態度を思い、
顔を強張らせていた香世の心を溶かしてくれた。

「至らないところは多々あると思いますが、ご指導のほどよろしくお願い致します。」
香世はタマキにそう告げる。

「香世様、このお屋敷には旦那様しか住んでおりませんので気楽にお寛ぎ下さい。
離れの方に、私と私の夫の古賀が住んでおります。
先程の女中2人は通いでこちらでご厄介になっております。
どうぞよろしくお願い致します。」

タマキさんは優しそうな人で香世はほっとした。