冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

使用人の古賀と真壁と酒井は、
前田の運転する車に乗り込み。

香世と真子は二階堂の運転する車にそれぞれ乗車する。

「真壁、酒井ご苦労だった。
古賀、2人に何か旨い物でもご馳走してやってくれ。」
そう言って、二階堂は運転席に乗り込む。

香世と真子は後ろの席で寄り添い静かに二階堂を見守る。

「真子は、自動車に乗るのは初めてか?」
その様子を見て二階堂が問う。

真子は香世の腕にしがみつきながら、
うんうんと首を縦に振る。

それを、バックミラーでチラリと二階堂は確認し、

「ゆっくり走るから安心しろ。」
そう静かに言って車を走らせる。

しばらく香世にしがみついて、
ビクビクしていた真子だったが、
花街を抜け街中に入った頃にはすっかり元気になって、

「すごい、速い!!」
と、香世の手を取ってはしゃぎ出す。

香世はそれを優しく見守り、
二階堂は、彼女が綺麗なままこの世間に戻って来れた事に心底ホッとした。

「二階堂様、私のみならず真子ちゃんの事まで一緒に連れ出して頂き、本当にありがとうございます。」
ミラー越しに香世はそう言う。

「礼には及ばぬ。人道支援だ。
人として当たり前の事をしたまでだ。」
二階堂は表情を全く変えず淡々と言う。

普通、人道支援で1000円もの大金を出せるだろうか…。
香世はそう思うが二階堂に直接聞く勇気はまだ無い。