香世の記憶が戻った。

また0から始めなければと思った矢先の
父親の訪問で、
突然、気を失った香世を再び病院へ運んだ時、俺がどれほど心配したか…

目覚めた時どれほど安堵したか…
当の本人には伝わってないだろうな。

苦笑いを浮かべながら病室へと足を運ぶ。

外はあいにくの雨、
思い通りに終わらない仕事にイラつきながらやっとここまで辿り着いた。

そのせいか、妙に浮ついた気持ちでやたらと香世を困らせてしまう。
そんな自分自身を持て余しながら家に連れ帰る。

服はびしょ濡れで不快なはずなのに、
香世が俺に構ってくれる事が嬉しくて、
全てがどうでも良くなった。

香世が俺の隣に居てくれるだけで、
気持ちが満たされる。

記憶を無くしてからの、
精神年齢15歳の香世もチラチラと垣間見せながら家に帰る。

冷えた体を早く温めて欲しいのに、
頑として先に風呂へ行かない香世に痺れを切らし、強引に風呂場に連れて行き感情のままにボタンに手をかけてしまった。

真っ赤になって恥ずかしがる香世が
脳裏に焼きついて離れなくなった。

丁度寝る頃、
近くで落雷があったのか家中の電気が消える。

雷が苦手らしく、香世は先程から俺に張り付き震えている。

雷が光るたびに小さな悲鳴を上げて、
ギュッと掴んでくる小さな手が愛しくて、
膝に囲って抱きしめ背中を撫ぜる。

「そろそろ寝室へ行くか。」

雷が遠のいたところを見計らい、
香世の手を取って2階の自室に向かう。

香世の部屋の前で足を止め、1人で大丈夫かと顔色を伺う。