改めて二階堂は背を正し、女将に向き合い言い放つ。

「彼女が欲しい。いくら出せば良いか?」
単刀直入に聞く。

「400円、これ以上はびた一文も負けないよ。」
これには真壁も酒井も驚き、思わず顔を見合わせる。
400円あれば高級車が2台は買える。

「香世殿の価値はそんな値段か?」
フーッとため息を付き二階堂は言う。

「では、千円出す。
ただし、先程の子も一緒に連れて帰る。」

これにはこの部屋にいる誰もが驚き騒つかせた。

「驚いたね。アンタ何者だい?
軍人中尉にしては羽ぶりがいいねぇ。」
女将がそう言って、ここに来て初めて笑う。

さすがに香世も驚き目を丸くする。

「二階堂様、私のような者にそのような大金を出して頂く訳にはいきません。
どうか、お引き取りをお願い致します。」
精一杯の気持ちを込めて頭を低く下げる。

「香世殿、貴女の価値は本来、 
金には変えられないと私は思っている。
ただ、貴女をここに置いて置く訳にはいかない。
1分1秒でも早くここから連れ出したい。
先程のあの子を助けると思ってここは言う事を聞いて欲しい。」

あの、二階堂が、軍部で鬼と恐れられる冷酷な上官が、まだうる若い女子に頭を下げている…。

真壁も酒井もただ、ただびっくりして事の成り行きを見守る。

香世は戸惑う。

二階堂と言う男、私だけじゃなくまだ年端もいかない少女まで一緒にここから出してくれると言う。

小さな彼女の事を思うと心が痛む。

しかし、1000円もの大金…
多分2階建ての家が一軒建つくらいの価値がある。