冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

「あの医者、どんだけ待たせるんだ。」
悪態を吐きながら正臣が病室に戻って来た。

軍服姿の正臣に香世は心配になる。

「正臣様、お仕事の途中でしたよね?
戻らなくても大丈夫なんですか?」

「ああ、真壁が体調不良で早退だと上部に伝えたらしいから、今日は戻りようが無い。」

香世は驚き、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「あの、ごめんなさい。
私のせいでわざわざ早退させてしまって…。」

「香世のせいじゃ無い。
強いて言えば親父のせいだから気にしなくて良い。」

軍服の上着を脱ぎながら正臣は笑う。

「しかしずっと制服のままも寛げないから
今、前田に着替えをお願いした。
それより、栄養が足りて無いと医者から聞いた。そんなに食べれてなかったのか?」
正臣はため息を吐く。

「…あの、余り食欲が無くて…。」

「意識してちゃんと摂らないといけない。
香世はただでも食が細いんだ。
1日5食ぐらいに分けてでも食べるべきだ。」

「…それは、たちまちお相撲さんみたいになってしまいますよ。」
香世はクスクスと笑う。

「今、前田にプディングもついでに買わせているから後で一緒に食べよう。」

「はい、ありがとうございます。」

「少し休んだ方がいい。」
そう言って香世をベッドに寝かし、
正臣はベッド脇に腰掛ける。

そっと正臣の手に触れ、
「ずっと手を握っていてくれてありがとうございました。凄く心強かったです。」

「俺に出来る事はそれぐらいしか無いから。」
香世の前髪に触れそっと掻き分け額に口付ける。

「これはなかなかの試練だ…
今まで我慢していた分、衝動的に触れたくなってしまう。」
苦笑いしながら正臣が、
香世の髪を愛おしいそうに触れる。

「我慢なんてしないで…」
香世はそう小声で呟く。

「…そんな事言われると歯止めが効かなくなりそうだ。」
正臣は笑ってベッドから立ち上がり、近くに置いてある椅子に座り直す。

「少し寝た方が良い。」
香世の手をとってぎゅっと握ってくれる。

「ありがとうございます。」
その温もりが嬉しくて安心して目を瞑る。

怖い人だと言うけれど、
やっぱり正臣様は本当は優しくて心の暖かい人だと香世は思った。