冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す


「すいませんが、診察をしたいので皆さん廊下に出て下さい。」
看護婦に咎められて男達は静かに廊下に出る。

香世は医者からいろいろと問診され、
異常が無い事を確認してホッとする。

正臣の父に会ってからずっと痛んでいた頭痛も今は無い。

それよりも、忘れてしまっていた3年間の記憶が蘇り、頭がハッキリしてすっきりした気分がしている。

「今夜はとりあえず安静の為に入院して様子を見ましょう。なんとも無いようなら、明日には退院出来ますので。」

「はい、ありがとうございます。」
香世は医者に頭を下げてお礼をする。

「しかし、あの二階堂様があんな風に慌てられるのは初めて見ました。
部下が怪我してもご自分が怪我されても至って冷静な人だったのに、婚約者様には特別なんでしょうね。」

軍病院なのだから、これまでもきっとお世話になっているだろうと想像はしていたが、
婚約者だと知られているのだと思うと少し恥ずかしくなる。

「ご存じだったのですね…。ちょっと恥ずかしいです。」
香世は照れ笑いする。

「貴方が怪我で運ばれて来た時から目覚めるまでずっと付きっきりでしたよ。
今日だって仕事中に駆けつけて来られたんですよね。」
確かに、軍服のままの正臣は仕事を抜け出して来たのだろうか…香世は急に心配になる。

「本当ですね…お仕事大丈夫なんでしょうか…。」

「二階堂中尉は厳格で怖い人だと患者から良く聞いていましたから、まったくそのような感じを得られなかったので驚きましたよ。」

「そうなんですね…。」
と、苦笑いするしか無かった。

確かにさっき、実父と対面していた時の正臣は鬼のようだと思ったけれど…。
止めなくちゃと必死だったせいか、
怖いとは思わなかったなぁと香世は思う。

医者としばらく談話して、
また何かありましたら直ぐ連絡を、
と言い残し部屋を去っていった。