冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す


「香世…全部思い出したのか?」
正臣の問いかけに香世がこくんと頷く。

「真壁、医者を呼んで来い。」
信じられないと言う顔をした真壁にそう伝える。

「はい!」
バタバタと真壁が病室を出て行く。

「本当に…俺の事も全部思い出したのか?」

「はい、正臣様。何故思い出せなかったのか不思議なくらいです。
ごめんなさい、寂しい思いをさせてしまいました。」
香世は手を握ったままの正臣の手に
反対の手を重ねる。

「そうか…良かった。本当に良かった。」
正臣にとってこんなに嬉しく思った日は
今まで無かった。そのぐらい嬉しい。

握る香世の手に力を込めて、
「唇に口付けしても許されるか?」
と、思わず問う。

「はい…。」
と、香世が恥ずかしそうに頷くから、
すかさず顔を近付け唇を重ねる。

「香世、好きだ愛してる。」
そう伝えずにはいられない。

「私も…お慕い申し上げております。」
恥ずかしそうに淵目がちに言う香世が愛しくて、もう一度と唇を奪う。

ガラガラっと容赦無く扉が開かれ医者が駆け込んで来る。

正臣はパッと香世から離れ立ち上がるから、
香世は可笑しそうにクスクス笑う。

医者の後に真壁と運転手の前田も安堵の表情で入って来た。

「香世ちゃん大丈夫?」
前田が正臣を退け香世に近付く。

「前田さん、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました。」
香世はベッドの上で身体を起こす。

「香世ちゃんが退院してからも合わせて貰えなくて、寂しくかったんだ。」
前田は正臣を恨めしそうに見る。

そんな2人の様子を見て香世は微笑む。