冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

「香世、香世!!」
突然意識を失った香世に正臣は何度も呼びかける。
血の気を失った頬に触れ、何とも言えない恐怖に襲われる。

「タマキ、香世が倒れた!至急病院に連絡を!今から車で病院に運ぶ。」

大声でタマキに伝え、
父を睨みつける。

「もし、香世にもしもの事があったら一生恨む。」
そう投げ捨て、
香世を抱き上げ玄関へと急ぐ。

父はしばらく思考が停止したかのように 
その場から離れられないでいる。

いつも冷静沈着な正臣が、
声を荒げ親に刃向かうなんて…。

恋や愛にうつつを抜かしている場合では無い。そう言いたかった、冷静になれと…。

眼鏡の男が散らばった札束を拾い集める。

「大旦那様、この金はどうしますか?
彼女、受け取りそうもありませんね。
しかも、あの感じでは正臣様は本気で全て捨ててしまわれますよ。」

「…アイツの、本気を知りたかっただけだ。」

「しかし、香世様にもしもの事があった場合、殺されかねませんよ。」
どんな時でも冷静な部下に苦笑いする。

「古賀、お前が正臣に教えたのか?
昔からお前はアイツ寄りだったよな。」
古賀と呼ばれた眼鏡の男はほくそ笑む。

「まさか。私は誰の味方でも無く、ただ任された仕事をするまでです。」

眼鏡の奥の目はどれだけホッとしたか分からない。
古賀は昔から二階堂家の金庫番で、香世の身請けの時も花街に居た。

あの時から、正臣の本気は分かっていた。
だから、何があろうと助けに来るだろうと思っていたのだ。
少し荒療治だったが、大旦那様にも痛いほど伝わっただろう。

香世様の体調が悪くなるのは予定外だったが…。
もしもの時は自分も殺されかねないな、
と古賀は思う。