「ごめんください。」
玄関から声がして、香世とタマキは掃除の手を止める。

「どなたでしょうか?ちょっと見て来ますね。」
と、タマキが襷掛けにしていた着物を解いて
身なりを整えながら玄関に向かう。

香世も急いで割烹着を脱いで着物をはたき
身なりを整える。

「香世様、大変です!大旦那様です。
今、居間の方に通しましたので、急ぎでご挨拶に向かって下さい。」

普段落ち着いているタマキが慌てたように
香世を急きたてる。

「大旦那様は、陸軍大将をされていてとても威厳に満ちた方です。旦那様よりも倍怖い方ですから、くれぐれも粗相の無いようにお気をつけ下さい。」
そんな風に言われると、倍に心配になってしまう。

「何のご用意かしら?」
香世はビクビクしながら居間に向かう。