よく寝入っている香世を起こすのも忍びないと、しばらく寝かす事にする。

正臣と龍一は先に朝食を食べようと他の空き部屋に移り、タマキに頼み朝食を運んでもらう。

「龍一は嫌いな食べ物はあるか?」
2人で食事をしながら正臣が話しかける。

「…僕は…椎茸が嫌い。」
正臣は戸惑いながら小声で話す龍一を不思議に思い、
「どうした?」
と、問う。

「僕の家では、ご飯時に会話をするとお父様に怒られるんだ。
二階堂様の家は良かったの?」

「そうなのか?
俺の家は放任主義だから、
家族揃って食事をする事はなかなか無かったんだ。
その家々に違うしきたりがあるのは承知しているが、俺としては美味しい物を食べてる時に美味しいと分かち合える事は大事だと思う。
だから、この家に来た時は食事中気にせず
話してくれれば良い。」

「はい。」
龍一は分かりやすく元気になってご飯食べ始める。

「俺は子供の頃、筍がどうしても食べられなかったが、大人になったらいつの間にか食べれるようになった。
味覚はいろいろ食べていくうちに変わるから
怖がらず何でも食べてみるべきだ。」

「僕、人参も苦手だったんだ。
でも香世姉様がお花の形に切ってくれて食べられるようになったんだよ。」

「優しい姉様だな。」
正臣は、香世の優しさを垣間見た気がして嬉しくなる。

2人話しながら楽しく朝食を食べていると、
パタパタと走って来る音がして襖がスーっと開く。

「申し訳ありません。眠ってしまったみたいで…。」
香世が廊下で正座をして頭を下げている。
洋服に着替えて慌てて来たらしく息を切らしているから、

「そんなに慌てて来なくても…転んだら大変じゃないか。」

と正臣は思わず立ち上がり、
手を引き立ち上がらせ部屋に入れる。

「大丈夫か?」
心配になって顔を覗く。

「すいません…お部屋に、運んで頂いたのも
気付かなくて…。」

「気にしなくていい。
まだ本調子じゃ無いんだからゆっくり寝ているべきだ。」
心配顔で香世を見据える。

香世を龍一の隣に座らせ、
水と朝食を持って来るようにタマキに頼む。

「少しでも転ぶような事があったら心配なんだ。頼むから走ったりしないでくれ。」
龍一は、心配が消えない正臣と香世を交互に見比べ、ふふっと笑う。

不思議に思った香世が、
「龍ちゃんどうしたの?」
と聞く。

「だって、姉様だけがきっと二階堂様を慌てさせるんだ。
姉様はもっとお淑やかにしなきゃダメだよ。」
小さな弟にダメ出しされてしまう。

「ごめんなさい…。」
可愛いくシュンとなった香世を見て、

「確かにそうかも知れない。
香世にはいつだってハラハラして、
心配させられるんだ。」
今度は正臣がハハッと笑う。

「それに、大きいお姉様はまだ起きて来ないんだよ。」
可笑しそうに龍一が言う。

「確かに、香世は姉上を見習うべきだ。
もっと堂々と怪我人らしく寝ていればいい。」
笑顔で正臣がそう言ってくれて、
香世もホッと一息をついて安堵する。