「気にしなくて良い。
俺は自分がしたい事をしているだけなのだから。」
と正臣は笑う。

それから正臣は少し待っていろ、と言って客間から出て行ってしまう。

隣には龍一がスースーと可愛い寝息を立てて眠っている。
香世も不思議と安らぎを覚えうとうとと眠ってしまった。


正臣が着流しに着替え、
冷たい水を持って再び客間に戻ってみると
香世はぐっすり眠っているようでホッとする。

気休め程度かもしれないが、
少しでも香世の頭痛が治れば良いと、
濡れ手ぬぐいを額に置いてみる。

この家の記憶が無い香世が、
どれほど不安で苦しい思いをしているのか、
計り知れないが…

出来れば、このままこの家に留まって欲しいと思う。

幼さの残る寝顔を見ながら考える。

香世は幼い弟の為にも、実家に帰ると言うのだろうか。

正臣はなんと声をかければ良いか迷っている。