香世はがっかりした顔をして棚を見つめている。そんな幼い仕草も可愛いなと思う。

「じゃあ、次は反対の手を出して。」
俺のマッサージは続き、
香世の緊張も若干解けていく。

「あの…二階堂様は…傷は大丈夫なのですか?」
香世が遠慮がちにそう聞いてくる。

暴漢に襲われた時の傷を言っているのだなと
思い、手のひらを開き香世に見せる。

「この傷はさほど深くは無かったんだ。
後は消えていないが、そこまででは無かったから心配するな。」安心させるように言い聞かせる。

香世はおもむろに指を伸ばして俺の古傷を
撫ぜる。

「…三年も月日が経っているのですね。
思い出せなくてごめんなさい。」
香世が頭を下げてくる。

「香世と今話しが出来るだけで満足だ。
気にしなくて良い。
記憶を失ったのは香世のせいでは無いのだから謝るな。
それよりも近くにいながら助けられなかった俺の責任だ。痛い思いをさせてすまなかった。」

ずっと言いたかった言葉がやっと伝えられてた。

香世はぶんぶんと首を横に振る。

「二階堂様は決して悪くありません。
悪いのはいつだって向こう見ずな私なのですから…。」

「いや、それは違う。
香世はいつだって自分の事よりも他の人の為にと動く、その気持ちは称賛に値する。
誰もが真似出来る事では無い。
誇りに思う。」