病室の前でノックをすると、
「はい。」
と、香世の声を聞きガラッと引き戸をあける。

「すまない、少し遅くなった。」
そう言って、俺は軍帽を取り軍服を脱ぎながら部屋に入る。

びっくり顔の香世を目の前にして、
しまったなと思いながら、

「この格好で来るんじゃ無かったと、今更ながら後悔している。
香世を怖がらせるだけだな…申し訳ない。」

と、誤りバサっと軍服を椅子に掛け、
個室に付いている洗面台で手を洗う。

「あの、いえ、全然、
怖いとかは思ってないので…
ただ驚いただけです。」

香世はベッドにぎこちなく寄りかかりながら
微笑みをくれる。

「手足の強張りはどうだ?
マッサージするから手を出して。」
俺が何気に言うから

「えっ⁉︎」
と、香世がびっくりして目を丸くする。

俺は、
「いつもの日課だから。」
と、半ば強引に香世の手を取り
指の一本一本を丁寧に折り曲げて、
強張りを取る為マッサージする。

「あ、あの…。
いつもこれをやって頂いていたのですか?」
香世が遠慮がちに聞いて来る。

「ああ、人間は1日動かないだけで筋力が落ちてくるんだそうだ。
香世は丸3日寝たきりだったから、
立ち上がるのも容易では無いんじゃ無いか?」

香世の小さな手のひらを押しながら筋肉をほぐす。

「あ、ありがとうございます。」
香世は恥ずかしそうに俯いてしまう。

「夕飯は、食べたか?」
少しでも香世の緊張をほぐしたくて
何気ない会話を続ける。

「…いえまだ、
突然食べるとお腹がびっくりしてしまうそうです。私は明日の朝、お粥から食べて良いそうです。」

「そうか…じゃあまだ味噌まんじゅうは食べれそうも無いな。
また、姉上が来た時にでも代わりに食べてもらえ。」
そう言って、枕元の台に味噌まんじゅうを置く。

「わぁー。この味噌まんじゅう好きなんです。」
嬉しそうに香世が言う。

「知っている。食べられなくて残念だな。
また、普通に食べられるようになったら買って来る。ここに置いておくのは目に毒か?」

「ふふっ、ちょっと一口だけでも食べてみたい気はしますが…我慢します。」

可愛く笑ってそう言うから、
自然と俺も笑顔になって香世の頭を撫でる。

「じゃあ、見えない場所に置いておく。」
そう言って、俺は隠すように少し離れた棚に仕舞う。