冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

その頃、
香世達人質は疲労が見え始め、
腕の縄を解いて欲しいなどの要求が出始める。

しかし、犯人側は便所と水分補給のみ許すぐらいでなかなか解放も進まない。

人質の中には老人達を中心に、
気分が悪くなったり身体が痛いと訴える人も出てきていた。

シクシクと泣き始める婦人が出てくると、
香世もどうにかしなければと本格的に思考を働き始める。

さっき、正臣の声を聞いた。

彼の部隊が対応に駆り出された事が確認出来た。

私に出来る事はただ一つだろうと、
香世はここにきて決心を固める。

人質を見張っている犯人側の1人に話しかける。

「あの、私…樋口香世と申します。
そちら側の1番お偉い方とお話しがしたいのですが、取り継いで頂けませんか?」

すると男はどんな用かと聞いてくる。

「私はこの交渉の指揮を執る二階堂中尉の
婚約者です。人質の中には体調を崩されている方もいらっしゃいます。
どうか、早く解放して頂きたく思います。
人質は私1人で充分なのでは無いでしょうか?」

この女、何を言い出すのかと怪訝な顔をする。
誰もがいち早く逃げ出したい状況なのにも関わらず、
自分1人が人質として残り後の人質を解放しろと言うのだ。

「気は確かか?」
何を言っているのかと言う具合で、
なかなか取り入って貰えない。

「あの、私はかつて伯爵を名乗っていた家の者です。父が事業に失敗しあなた方と同じ道のりを辿りました。
いくらばかりか同情しております。
どうぞ、私を交渉ごとにお使い下さい。」

ここでやっと、犯人側の男が主犯格の男に話をしに行ってくれた。