昼過ぎにやっと松下は帰って行った。

週末はタマキも休みだから、
香世と2人きりの時間をやっと手に入れる。

今からどこかに出かけるのも億劫だし、
このまま家でのんびり過ごそうかと思い
庭先の縁側に腰を下ろす。

「そよ風が気持ち良いですね。
冷たいお茶をお持ちしますか?」
香世が優しく微笑んでくる。

「お茶は要らないからここに居ろ。」
強引に腕を引っ張り体制を崩した香世を膝の上に囲う。

「きゃっ。」

香世は目を見開き驚いているが、
戸惑いながらも大人しくしているから、
抱きしめ髪を撫ぜ愛しむ。

しばらくそうしていると、
「正臣様は私が家を空けるのに賛成ですか?」
と、香世が問う。

働く事を言っているのだなと思い、

「出来ればこのまま香世を独り占めしたいと言うのが本音だが……
それでは勿体無い気もする。
もっと広い世界で輝いて欲しいとも思う。」

「私に…出来るでしょうか?
父の為に働いてくれた方々に少しでもお手伝いが出来たらと思うのです。
きっと横暴な社長だったと思うので…。」

俺は感心する。

「そんなふうに考えていたんだな。
香世がやりたいようにすれば良い。
俺の助けが必要ならいつでも手を貸すから。」

香世が安心したように
「ありがとうございます。
…私、頑張ってみようと思います。
正臣様の力をお貸し下さい。」

「分かった。
ただ、一つだけ約束して欲しい。
香世が帰る場所は必ず俺の側であって欲しい。どこにも行くな。」

真剣な眼差しで香世を見つめる。

彼女が世間に出て働き出せば
いろんな男共の目に止まるだろう。

魅力的な彼女を手に入れたいと思う輩だってでてくる筈だ。

…そう思うと不安でしか無い。

結婚という形で彼女を縛ればこの不安は拭えるのだろうか…。
早く俺だけのものにしたい。

「私が帰る場所は正臣様の側しかないし、
側が良いんです。」
香世も俺を見つめてくる。

「ありがとう。直ぐにでも結婚したいが…
俺の親にも一応承諾が必要だな。」
厄介な家族だが…。

「正臣様のご家族に会ってみたいです。」
ふわりと優しい笑顔をくれる。

香世に両親を紹介するのは少し抵抗があった。
父は軍人気質で人を人とも思わないような冷酷な人間だし、今や妾の家に入り浸りだ。

そんな父に愛想が尽きた母は、
外に愛人を作り形ばかりの夫婦を演じている。

そんな冷めた夫婦を見せて良いものかという思いもあって、実家に香世を連れて行けなかったのだ。

香世の事は既に父親には知られていたから、
俺の事には無関心なのかと思えばそうでも無いらしい。