冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

居間では松下がタマキと談笑して待っていた。

「旦那様、松下様はとても楽しい方ですねー。」

タマキは普段俺には見せた事のない楽しそうな顔をする。

さすが色男…
年増の既婚者でさえ虜にするのかと心の中で悪態を吐きながら苦笑いする。

「タマキ、夕飯は話が終わってからにしたい。香世を呼んで来てくれ。」

「分かりました。
では、お茶をお持ちしますね。」
タマキは終始にこやかに松下に笑いかけ、
香世を呼びに部屋を出て行った。


「今回の事はいろいろ世話になった。」
俺は素直に頭を下げて礼を言う。

「いや、俺としてもあの会社は経営次第で変わると思っていたから、良いタイミングで手に入れる事が出来て良かったよ。
それより、香世さんが前社長の娘さんか?
全く似てないな。」
そう言って松下は笑う。

「香世は絶対、母親似だ。」
似てなるものかと思ってしまう。

「お前が女子にそれほどまでに
入れ込むとは珍しいな。」
何が言いたいんだ。

「まぁ、心配するな。
他人の物は奪わない主義だ。そう睨むな。」
松下は、ハハハッと笑う。

「今日の事だが…
まだ香世には何も話していない。
彼女はあの父親から男尊女卑を叩きこまれて育っている。令嬢特有の太々しさも負けん気も持ち合わせていない。
俺だけでは多分説得し切れないと思って
お前を呼んだ。」

「お前にしては珍しく弱気だな。
惚れた女には強く出れないのか?」

「香世が少しでも嫌がる素振りをみせたら
強くは押せない。
彼女の錘になるようなら無理強いはしないでくれ。」

「ふーん。かなり大事にしているのだな。
分かった。上手く話してみるが思慮深い人とだと見た、説得するには時間がかかりそうだな。」

この短時間で香世の何を分かったのだと言いたくなるが、この男の話術に頼ったのは俺だから強くは言え無い。

ここは我慢するしか無い。