「…香世お姉様は…結婚するのですか?」
やっと涙が止まった龍一が、
香世に抱かれながら正臣を見てくる。

「龍一君、お姉様をお嫁に貰いたいんだ。
許してもらえるだろうか?」
正臣は子供相手でもちゃんと気持ちを伝えてくれる。

香世はそんな正臣を見て感動し涙が再び出そうになる。

「僕…香世お姉様が居ないのは寂しかったよ。
でも…お姉様が幸せなら…僕も嬉しい。」

正臣を見ながら少し龍一は考え込む。

「お姉様、幸せ?
二階堂様はお父様みたいに怖く無い?」
香世に向かって聞いてくる。

「お姉様はとっても幸せよ。
正臣様はとても優しい方だから心配しなくても大丈夫。
それに、とても強い方だから龍ちゃんの事も守って下さるわ。」
香世は優しく龍一に言う。

「二階堂様、僕も強くなりたいんだ。
お姉様達を守れるくらい。 
僕に武術を教えてくれますか?」

「ああ、良いよ。
武術なら一通り出来るからなんだって教えてやれるよ。」
にこやかに龍一の頭を撫ぜる。

「本当に⁉︎
僕、剣道を教えて貰いたいんだ。」

龍一は途端に目を輝かせきらきらの笑顔を
見せる。

「お安いご用意だ。
龍一君はお姉様達を守れる為に、強くなりたいんだな。」

「うん。お父様が酔うとたまに暴力を振るうから…お父様から守りたい。」

龍一はいつも父に怯えていた。
姉に庇われながら強くなりたいと悔しく思っていた。

まだ小さいのにそんな事を思っていたなんて
ちゃんと男の子なんだと、香世は龍一の成長を嬉しく思う。

「龍ちゃん、正臣様は中尉様なのよ。」

香世が優しく教えてあげる。

「本当に⁉︎凄いや…あの、所属は何部隊ですか?」

「第一部隊だ。
皆、各地からより集められた精鋭部隊を率いている。
龍一君は軍隊に興味があるのか?」

「凄い!格好いいです。
僕も大人になったら軍人さんになりたい。」
龍一は元気にそう正臣に宣言する。

だけど正臣は寂しく微笑み、
「正直なところ、軍人になるのを勧める事は出来ない。」
ゆっくりとだけど龍一の目を見てハッキリと話しかける。

香世もその言葉を聞きハッとする。

「今は平和な世の中だけどこの先何が起きるかは分からない。
もしも、戦争が起きたら国を守る為、
大事な人を守る為に軍人は最前線に行って戦わなければいけないんだ。
そうなると、龍一君の大切な家族に心配をかける事になる。辛い思いをさせる事になる…」

正臣は最後の言葉で香世を見る。

2人しばらく時が止まったかのように見つめ合う。

「二階堂様は、辛いね…。
軍人さんは大変なお仕事なんだね…。」

龍一の声で2人我に帰る。

「お姉様はそうなったら寂しいし、辛いね…。」
龍一は香世を見て抱きついてくる。

「お姉様は…大丈夫。
もうとっくに覚悟を決めてます。
それでも正臣様のお側に居たいと思っています。」
香世はあえて明るく龍一にも正臣にも伝わるようにハッキリと言う。

「そうか…。」

正臣は一瞬目を伏せてそっと息を吐く。