「今晩は香世ちゃん。」
前田が運転席から親しげに話しかけてくる。

「今晩は。お世話になります。」
香世は正臣と後部座席に座りながら、
にこやかにお辞儀をする。

すると、何故か正臣が香世の手を握って来るからドキッとしてしまう。

チラチラと横に座る正臣を伺い見る。

当の本人は何事も無い風に前を向いたままなので、気にしてはいけないと香世も前を向く。

「桜祭りのお土産をありがとう。
俺にまで気を遣ってくれて嬉しいよ。」

「いつも正臣様がお世話になってますし、
それに父との事でもいろいろと動いてくれてると聞いています。
私の事も正臣様と共に探して下さったって…お礼し尽くせないほどです。」

「俺はボスの片腕だから、当たり前の事をしたまでだよ。」

「それでもです。」
香世はもっと何かの形でいつかちゃんとしたお礼がしたいと思う。

「香世、こいつにお礼なんて思わなくても大丈夫だ。それなりにちゃんと給金を出してるし、それが仕事だ。」

正臣がそう言って香世の手をぎゅっと握る。
人知れず、2人の仲の良い雰囲気が面白く無いと嫉妬している。

「そうだ。今度、俺にもお弁当を作って欲しい。」

「そんな事で良かったらいつでも作ります。」
香世はお安い御用だとばかりに返事をするが、

「駄目だ…駄目に決まってるだろ。
俺だって一度しかまだ食べてないのに…
なんで前田が香世の作った料理を食べるんだ。」
不貞腐れたように正臣が言う。

前田といらる時の正臣は何となく子供っぽくて可愛らしいと香世は思ってしまう。

「正臣様もお昼にお弁当が欲しかったら、
いつでも作りますよ。」

「それは…食べたいな。」

ふふふっと香世が笑う。
「前田には作らなくていいからな。」

「それではお礼が出来ません…。」
香世は可愛いく嫉妬をする正臣の気持ちがよく分からずそう言う。

「そうですよ。
ボスばっかり独り占めはずるいです。」
前田も負けずに抗議する。

「お前は黙って運転してろ。」

「何ですか!大人気ない。」
そんな2人を見て、香世は思わず笑ってしまう。
師弟関係なのかと思っていたけど、
まるで兄弟みたいだなと思う。

「何だかお二人ご兄弟みたいですね。
仲が良くて羨ましいです。」