お花見のお寺に到着して、
思いの他、人の多さに驚く。

道端には出店が並び、まるで縁日のように華やかな着物を着た人々で賑わっていた。

「このようなところで逸れては二度会えなくなりそうだ。どこかに掴まれ。」
正臣からそう言われ、香世は戸惑い少し考える。

今日の正臣は和服で紺の着流しを着て、
その上に薄手の灰色のトンビコートを羽織っている。
香世も薄桃色の着物に赤地の道行袖のコートを羽織っている。

どこに掴まるのが正確か香世には分からないが、正臣のトンビコートの裾元をそっと掴んでみる。

フッと笑い正臣はそっと香世の手を取り、
手を繋いでくるからびっくりして目を丸くする。
思わずその顔で正臣を見上げるが、
当の本人は何食わぬ顔で、 
そのまま香世の手を引いて歩き出す。

これは許されるのだろうか…。

香世は思わず周りをキョロキョロして俯き加減に、正臣の後ろを隠れるようにコソコソと着いて歩く。

「ひ、人前で、手を繋いで大丈夫でしょうか?」

「こんなに人がいるんじゃ誰にも見つからないし、手を繋いでても気付かないんじゃ無いか?」
まるで何事も無いかのような振る舞いで

「そうですか…。」
と、香世も呟くばかりだ。