思いがけない過保護を発動する正臣に、
慣れる事が出来なくてまた緊張してしまった。

そして今、やっとの事お花見に繰り出したのだ。

香世が車の中で静かにしていると、

「香世、直ぐにとは言わないが、
2人でいる事に少しずつで良いから慣れていってくれないか?
そんなに緊張されるとこっちだって緊張する。」

正臣は運転しながら苦笑いしている。

「正臣様が…?
緊張される事なんて、あるのですか?」
香世は驚いた顔を見せる。

「俺をなんだと思ってる?
香世の前では、威厳も誇りも取っ払って
ただの男に成り下がる。
だけど、そんな自分も嫌いじゃ無い。」

「…私もそんな正臣様、嫌いじゃありません。」
香世も釣られてそう伝える。

2人顔を見合わせて笑う。

正臣に、ポンポンと頭を撫でられて、
お陰で香世も少し肩の力をが抜けてやっといつもの香世に戻る。

「今日はどちらに行かれるのですか?」
香世は落ち着いた自分にホッとしながら、
車窓から辺りを見渡す。

「もう少し先なのだが、桜で満開のお寺があるんだそうだ。
真壁がやたらと勧めてきて煩くて…。
香世も日がな一日家にいるのも飽きただろうしと思ってな。」

「そうなんですね。ありがとうございます。真壁さんの傷の具合いはどうですか?
もし、宜しかったらお見舞いに伺いたいのですが。」

「あいつは元気にしてる。
香世が気にかける事はない。
どうしてもと言うならこの後少し顔を出してもいいが…。」

「はい。是非お会いしてお礼を言いたいのです。」
嬉しそうに香世が笑う。

正臣としては他の男に合わせるのはいささか複雑な思いだが、香世が喜ぶなら仕方が無い。