「何をそんなにお悩みなんですか?
香世ちゃんが気にかけていましたよ。」
「…そんなに顔に出ているか?」
力無く正臣は聞く。
「表情ではボスは分かりにくいけど…
何でしょうね?
貴方が何か悩んでいる事はちょっとした仕草で俺も分かります。」
どう言う事だと腕を組む。
「ほら、その腕を組む仕草とか。眉間の皺とか。」
「腕は、誰でも組むだろ。…元々こういう顔だ…。」
何がいけないというふうに正臣は思うが、
香世が気に掛けているのなら…
気を付けなければと素直に思う。
「ボスは元々凄く優しい人なのに、
その威厳のある佇まいが良くも悪くも貴方の良さを消してしまっているんです。
軍人としてはそれで良いかと思いますが、
男としてはどうなんでしょうか。
香世ちゃんにだけは曝け出して欲しいです。
俺はボスの事を尊敬してるので、
幸せになって欲しいんです。」
「お前…凄いな。
普通、本人相手になかなかそこまで言えない。」
冷静に正臣は前田の事を分析して感心してしまう。
「俺はボスに命捧げてるんで
何も怖くないんです。
貴方の為だと思うなら何だってしますし、
誰だって怖くないんです。」
いつに無く真剣な顔で前田が言う。
「俺なんかに捧げるな…自分の為に生きろ。
香世の事は…心配するな。
この仕事が終わったらちゃんと話し合う。」
傷付く事を恐れずに先に進まなければ
何も始まらないし…終わらない。
前田のおかげで心は決まる。
「ありがとう。
お前のおかげで覚悟は出来た。」
「いえ…。
俺は貴方のそう言うところ凄いと思ってます。やっぱりボスはカッコいい。」
前田は熱くなった気持ちを冷ますように
鼻を啜る。
「お前の感性おかしいぞ…。」
滅茶苦茶カッコ悪いだろ…と、
正臣は1人思う。
若くして中尉なんかを肩書きにしていると、
冷徹無慈悲で、誰の意見も聞き入れない鬼上司だと思われがちだ。
しかし正臣自身は、
良いと思う意見は直ぐに取り入れ、
できる限り柔軟な態度でありたいと思っている。
ただ、軍人気質な人達に囲まれて育ったせいか、闘争心や何事にも1番でなければならないと思う負けず嫌いは人一倍強い。
だから余計誤解を生み易いのだが…
誰かを支配したいとか、
上に立って人を従えたいとか、
正臣にそういう願望は一切無いのだ。
誰に対してもいつも対等で在りたいと思っている。
それは香世に対しては勿論だが、
使用人や部下に対してもだ。



