「俺の妻になれ。」

香世は目の前に座る男の低く落ちついた声を聞き、ビクッと肩を振るわせ瞬きを繰り返す。

目が合い、鋭く見据えた瞳に吸い込まれるように思わず見惚れてしまう。

その端正な顔立ちに、一寸の隙も無い立ち振る舞い。
部下からは鬼の中尉と言われ恐れられる存在であり、巷の女子達からは影でキャーキャーと騒ぎ立てられている。

「返事は?」

先程から一言も発さない香世に、
若干の憤りを覚えた正臣はもう一度聞く。

「…貴方様の望むようにお好きになさって下さい。」

香世そう小さく言って、頭を下げ続ける。

「何故、そのように申すのか?」

正臣は冷淡に言い放つ。
彼女の心意を知りたいと伺い見る。

「私は、貴方様からお金で買われた身です。
わざわざお聞きになさらなくても、
こ指示に従うのみでございます。」

両手をついて顔を下げる。

正臣は思う。

確かに金で解決するしか術が無かった。
しかし、出来ればこんな形で香世を手に入れたくは無かった。

「…俺の事は、名前で呼べ。」

「はい……正臣様。」
お互いがお互いの心がどこにあるのか全く読めない。

ただ、逆らう事も逃げる事もとっくに諦めている香世は、正臣の指示に従うのみだ。