「…入浴剤って…」



婚前旅行なのに、ムードのかけらもない。



私は、チラッと冷ややかな視線を送ってやった。



「なんだよ。なんかおかしい?」



「別にー。大きなお風呂だわね」



わざと棒読みで皮肉ってみたけれど、彼にはなんの効果もなかった。



「だろー、こんな風呂があったら最高だよな!しかも今ならミオと俺だけの貸切だぞー!」



彼が海に向かって両手を広げて、気持ち良さそうに叫ぶ。



果てしなく広がる自然に響く、果てしなくバカバカしい大声。



あまりに屈託なく笑う30歳男がおかしくて、私も一緒になって大声で笑った。