折原藍の家を一言で例えるのなら、それは監獄である。

藍の父、文雄(ふみお)は親から会社を受け継ぎ、会社のために道子(みちこ)と結婚した。文雄は折原家のトップに君臨しており、道子や藍は自分の道具の一つで従わせる存在と考えていた。そんな文雄に道子は一切逆らわず、藍はそんな家に嫌気が差していた。

藍は親に逆らうことにした。親が習うように言ったピアノやバレエは拒否し、医大に奨学金を借りて進学し、産婦人科医になって家を出た。

だが、藍が二十九歳の冬のある日、運命は最悪の方向へと傾いていく。きっかけは、外来が終了した後、藍にかかってきた電話だった。

『藍、そろそろ身を固めろ。私の会社を継ぐ男とお前は結婚し、後継者を産む。それがお前の仕事だろう』

それは、藍が大嫌いな文雄からの電話だった。結婚をしろという電話は、藍が二十代後半になってから毎日のようにかかってきている。何度目はわからない電話に、藍はため息を吐いた。