桜士と一花は紅子をモニカに任せ、榎本総合病院に急いで向かう。タクシーに乗り、暗く重い空気が流れる中、一花が口を開いた。
「コードゴールド、きっとヨハンが放送してくれていますよね」
「きっと放送してくれていますよ。それが、折原先生の望みですから……」
隣を桜士が見れば、一花の手は小刻みに震えていた。桜士はその手にそっと触れる。一花は一瞬驚いた様子を見せたものの、手の震えは収まることはなかった。
「一花!本田!」
病院の前で、ヨハンは落ち着きのない様子で待っていた。タクシーから二人が降りるとすぐ、声をかけられ、病室へ連れて行かれる。
「今日、突然折原先生が病院に来たんだ。そして倒れてそのままーーー」
ヨハンが病室のドアを開けると、そこには藍が寝かされていた。その表情はとても穏やかで、まるで普通に眠っているようである。
「折原先生……」
一花が彼女の名前を呟き、藍の手をそっと握る。桜士も藍に触れた。この体はまだこんなにも温かい。だが、目を覚ます可能性はもうゼロに近いのだ。


