胸骨圧迫を二人が始めて三分ほど経った頃である。奇跡が起きた。

「四月一日先生!」

桜士は赤ちゃんの手がピクリと動いたことを見逃さなかった。赤ちゃんの胸に付けられたモニターを見れば、心臓が脈打っていることがわかる。そしてーーー。

「おぎゃああああ!!」

バスの車内に、ラッパのような大きな声が響いた。新しい命が誕生し、自分の力で初めて息をした瞬間である。その大きな声に、紅子はもちろん乗客の目にも涙が浮かんだ。

「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」

保育器に赤ちゃんを入れた後、処置が終わった紅子に桜士は赤ちゃんを見せる。紅子は泣きながら保育器に手を伸ばした。

「可愛い……。生まれてきてくれて、ありがとう……」

その顔は、紛れもなく子どもの誕生を心から喜ぶ「母親」の顔だった。紅子の顔を見て、太一と太一の母親はどこか気まずそうにしていた。

「とりあえず、二人を大きな病院へ搬送してもらわないとね!」