妻が股から血を流し、苦しんでいるというのにこの二人は何を言っているのだろうかと桜士は怒りを通り越して呆れてしまう。まるで宇宙人と話をしている気分だ。そんな中、モニカは苛立った口調で言う。

「陣痛促進剤なんか使ったら、お腹の赤ちゃんは間違いなく死ぬぞ。今、赤ちゃんは酸素を体に取り込めていない。人間のお産は初産の場合、平均で十二時間から十五時間もかかる。お前ら、十二時間も息を止めてられるか?」

だが、それでも二人はギャアギャアと騒ぎ出す。

「陣痛促進剤を打ちまくったら何とかなるだろ!!」

「痛みを感じて産まないなんて、母親失格だわ!楽な道に逃げたのよ!」

バスは個人経営の産婦人科に止まる。一花は騒ぎ続ける二人を醒めたような目で見た後、「分娩セット、借りてくるわ」とモニカに言いバスを降りて行った。その間も、二人の大声は止まない。

「いい加減にしろ!!」

桜士はつい大声を出してしまった。Cerberusや一花以外のことで感情を出すのはどこか久々だった。突然の大声に、二人は口を開けたまま言葉を失う。桜士は二人に言った。