ずっと考えていた。
僕が今居るこの世界は、本物じゃない。

ここは物語の世界。
僕も奴らも、その中の登場人物。
僕の役は子爵家の妾の子。
母が死んで仕方なく、子爵は本宅に引き取った。

母に似た僕は子爵夫人や、その子供達の憎しみの的で、父も使用人達もそれを見て見ぬ振りをしていた。

だから、いつかこの物語は終わる。
辱しめや痛みや……
それらが、奴らから僕に与えられてるのは。

優しさや抱擁や……
それらが、奴らから僕に与えられないのは。

この物語の主人公が僕じゃないから。
早くこの物語が完結すればいいのに。
ずっとずっと、そう思っていた。
貴女がこの物語に現れるまで。

貴女はある日、父親の侯爵閣下と登場した。
僕は貴女達に会わないように、離れに行かされていたけれど、会ってしまった。

前日の夜にあの女に折檻されて出来た頬の傷に触れながら、貴女は言ったんだ。

『私の家族になってくれない?』って。