王太子の地位か、それとも兄の婚約者か。
どちらを先に欲したのかは、私の中で定かではなかった。
どちらかしか手に入れることが出来ないのならば、私はどちらを選んだだろうか……


「昨夜、実技があった」

愚か者が私に、自慢するように言った。
普段話などしないのに、珍しく私の部屋まで来た。
15から始まった閨教育の話だった。
座学を2年受けて、実技が始まったのだと自慢している。

愚か者と私は年子で、いくら弟の私の方が優秀でも、こればかりは自分が先に経験したのだと、ただそれだけの話だった。


「そうですか」

どうだったのか、教えてくれ、と。
私が食いついてこないので、機嫌が悪くなる。
どうせ来年は、私の番だ。

誰か相応しい女性が選ばれて、しばらく彼女と閨を共にする。
それだけの話に、私が食いつくことはないのに。


「詳しく話せないが、良かったとだけ、教えてやる。
 まあ、来年まで首を長くして待ってろ」

「そうですか」


兄の相手は、出戻りの子爵家の娘だった。
閨事に慣れている人間が選ばれるので、こちらは特に何もしない。
相手が導いてくれるからだ。