「クロエはいつでも、俺を捨てられる」と。

因みに殿下は閨教育の実技は拒否した。
ふたりでピカピカの初夜を迎えたいから、だそうだ。
抜かせ、バカ野郎が……

今でもこの頃の事を思い出すと、腸が煮えくり返る。
貴方もそうでしょう、シャルル殿下?

あのふたりが本格的に婚約者としての交流を始めて1年ちょっと。
まだまだグラグラしていますよ、貴方も隙有らば、ですか?

俺は……もういいですけどね。

殿下と伯爵令嬢が仲良くしてた頃、俺はクロエ嬢に会いに行っていた。
彼女がひとりで泣いているんじゃないか心配で。
婚約は白紙になっていなかったから、その時はどうこうなるつもりはなくて。

ただもし、婚約解消になったら。
君が君だけのものに戻ったら。
リシャール殿下の側近なんて辞めるから、俺の手を取って欲しいと、伝えたかったんだ。

だが殿下は必死に君の手を掴んで離さなかった。
君が『ご自由に』と、離しかけた手を両手で掴む為に、伯爵令嬢と繋いでいた手を振り払ったんだ。

思い出したくない事は多いが、俺は平気そうな顔をして、シャルル王子に話す。


「木曜日辺りに、あの女に会います」

「僕も行こうか?」

「いや、あの女に興味があるのなら、お止めしませんが」

「クロエ嬢を陥れようとするのは何故か、それだけが気になる」

それは俺も気になるし。


「出来るだけ聞き出してきます」