どんな状況……?とはてなを浮かべ、反射的に瞑った目を開ける。

「あっぶな……っ。」

「……い、ぬい……?」

 すると視界に、物凄く焦ったような表情で冷や汗を浮かべている乾が映った。

 そしてやっと、自分が乾に抱きしめられているんだと気付いた。

 もしかして私、乾に助けられた……?

「乾、何で……」

「有栖沢さん、怪我してない?」

 何で助けてくれたの?と聞こうとしたけど、乾のほうが語気が強かった。

 だから押されてしまい、ぎこちなく頷く。

 私がそうすると、乾は心の底から安心したようなほっとした表情へと変わった。

「それなら良かった。にしても、高いところは俺に任せてくれればいいのに。」

「乾、何で助けてくれたの……?」

 乾の言葉を無視して、単刀直入に聞く。

 何か思惑が……? もしや、“借り”とか言ってきたり……?

 あれこれと予想を立てる私を傍目に、乾はさらっとこう答えた。

「そんなの有栖沢さんが怪我しちゃったらダメだからだよ。」

「……それだけ?」