「……あ、そういえば杏ちゃん。乾君大丈夫なの?」

 何だか複雑な気持ちだ……と悶々と考えていた時、思い出したように空音がそう口にした。

 空音には、ファーストキス奪われ事件について話した。

 その日以来空音は私を気遣ってくれて、今みたいに聞いてくれる。

「大丈夫なのは大丈夫なんだけど……」

「なんだけど?」

「何かあいつ、やけに紳士っぽくなってるんだよね……。気持ち悪いくらいに。」

 一体何があったのやら……。

 そう思ってもう一度、大きな息を吐く。

 その時、向こうからこんな声が飛んできた。

「学級委員、ちょっと集合してくれー!」

 タカの先生の声が響き、仕方ないと思いながら腰を上げる。

 またお仕事か……っていうか、いつの間に大会終わってたんだろう。

 あまりにもぼんやりしすぎていたのかもしれない……なんて危機感を感じる。

「ちょっと行ってくる。」

「うん、気を付けてね!」

 何に気を付ければ……という言葉を飲み込んで、私は先生のほうへと向かった。

「へぇ……。」

 意味深に微笑む空音に気付かないまま。