甘くて優しい青春恋物語 ~一途な一目惚れは交わしのあとで淡い恋に~

 私には、そう言っているように見えた。

 ……気のせいだ、私は疲れているんだ。

 乾がそんなロマンチストみたいな事、思うはずがない。

「お願い、有栖沢さん。」

 ……それなのに、人間は変な生き物らしく。

「…………分かっ、た。」

 押しに押されまくると、こうして丸め込まれてしまうらしい。

 私の渋々な返事に、乾はぱあっと顔を輝かせた。

 ……っ。

 それは初めて見る、無邪気な笑みだった。

 乾がわんちゃんだったら、尻尾めっちゃ振ってそう……って思ってしまう。

 それくらい、分かりやすく喜んでいたのだ。目の前の男は。

「ありがとう、有栖沢さん。」

 それに加え、素直なお礼まで言ってくる始末。

 本当にこいつ、あのチャラい乾……?

 と、疑わずにはいられなかった。

 ……それでも、全部を信じるわけには行かないけど。

「必要最低限の会話しかしないから。」

「それだけでも嬉しい。本当にありがとう。」

 ……やっぱりこいつ、乾じゃないかもしれない。

 乾はもっと、軽めに「可愛い」とか「好き」とかいう奴だったはずだっ……。