甘くて優しい青春恋物語 ~一途な一目惚れは交わしのあとで淡い恋に~

「……そう、それだ。ありがと、いぬ……」

 ……乾、何故渡してくれないのだ。

 さっきも言ったとおり、乾は無駄に身長が高い。

 それ故、乾が手を上にあげれば私なんか全然届きっこない。

 ……今、その状況である。

「ちょっと乾、もうそろそろ教室戻らなきゃなんだから、渡してくれない?」

「……やっぱ無理だわ。」

「え……? ――っ!?」

 催促するように声を上げると、突如乾の声が聞こえる。

 その声はいつもは聞かないような真剣そうな声で、一瞬乾なのかと疑った。

 ……そして驚きの声を出した、その途端のことだった。

「いぬ、い……?」

 ちゅっ、と弾けるような音が響く。

 唇から伝わったのは、柔らかい感触と熱い体温。

 ……ま、まさか……っ。

「キス、した……?」

「……ごめん。」

 肯定でも否定でもない、謝罪の言葉が聞こえる。

 でも私にはそれが肯定としか取れなくて、一気に顔が熱くなった。

 やっぱり乾は、乾だ……っ!

「さいっていっ……!」

 空音やクラスメイトがあー言っても、乾は乾のままだ。