「もう落ち着いたの?」
「うん! 私ってばあんな夢見ちゃうなんて、学校1のモテ男さんを意識しすぎだよね」
「あ、そ。現実逃避することにしたわけね」
歩いて学校に向かいながら、紗奈は呆れた顔をした。
ショートカットの黒髪が風に吹かれると、青いインナーカラーがちらちらと見えて、なんともオシャレだ。
影で高嶺の花と言われているのも頷ける。
「葛籠が“こと”に一目惚れ、ねぇ……その前髪と眼鏡の下を見たんなら、ありえなくもないけど」
「へ? なんで?」
「モテ男だかなんだか知らないけど、好きな女子に声ひとつかけられないなんて意気地なしじゃない」
「無視しないで、紗奈……あと夢の話だから、現実の葛籠くんの評価を下げないであげて」