さっきのあれは、本当に諸刃の剣だったのだ。

リリスの力を引き出すことで、ナジュは一時的に…『冥界の女王』の力を扱える。

しかし、人の身で魔物の力を使うという荒業には、大きな代償が伴う。

それが、今目の前で苦しんでいるナジュの姿だ。

無理矢理人の身体で魔物の力を使ったが故に、使用後に凄まじい「反動」、「副作用」をもたらす。

あまりに強大な魔力に、耐えられなくなった心臓が破裂し、血管が破れ、身体中あちこちから出血する。

当然、耐えられなくなった身体は限界を迎え、死ぬ。

…これが普通の人間なら、とっくに死んでる。

でも、ナジュが死んでいないのは…彼が融合した魔物が、他でもない『冥界の女王』だからだ。

不死身の肉体を持つリリスと融合したからこそ、ナジュは普通の人間なら死んでいる事態になっても、死んでいない。

不死身であるからこそ出来る…ナジュだけの秘密兵器。

そして、諸刃の剣。

ナジュは死なないけど、確かに死なないけど…。

でも、死ぬほど痛い思いはするのだ。

現に、今も。

再生した傍から内臓が破裂し、また再生して、また破裂して…を繰り返している。

それが地獄の苦しみであることは、想像に難くない。

そして、「反動」が収まって安定するまで、それが延々とひたすら続くのだ。

…そうなることを分かっていて、お前は。

…そこまでして…。

「何で…君はいつも、そんな無茶を…!」

天音は、自分の怪我を押してナジュに回復魔法をかけた。

しかし…いくら回復魔法をかけても、そう簡単に「反動」は収まらなかった。

「大丈夫…ですよ。いずれ…放っておいたら、勝手に…治る…」

「治るからって、無茶して良い訳ないでしょ!」

…全くだ。

一体、何度お前に同じことを言ったか。

不死身だからって、考えなしに特攻を仕掛けて良い訳じゃないんだぞ。

…でも。

その無茶のお陰で、今回は助かった。

向こう見ずに突撃する悪癖は、断じて許容出来ないが。

今回はそれに助けられたのだから、その点については、素直に感謝する。

「…お前のお陰で助かった。けど…もう、二度とやるなよ」

もう二度と…ナジュにあんなことはさせない。

『不思議の国のアリス』はもう終わったのだ。これで、ナジュが無理する必要は…。

…と、思ったそのときだった。




「…!誰だ?」

また魔法道具の一つを攻略し、凱旋したばかりの俺達を、待っていたかのように。



突如として、とんでもない人物が…俺達の目の前に現れた。