アンコール マリアージュ

 夜の11時。
 玄関を開けた真は、部屋にほのかな灯りを感じてホッとする。

 (誰かのいる部屋に帰るなんて、何年ぶりだ?)

 鞄を置くと、ネクタイを緩めながら椅子に座る。

 (はあ、疲れた)

 ここ最近、引っ越し作業や真菜を迎えに行く事で、仕事を早めに切り上げていた。

 その分、今日は溜まった業務を一気にこなし、もはや身体はクタクタだ。

 水でも飲もうと、ノロノロと立ち上がった時だった。

 「お帰りなさい」

 ドアが開いて、真菜がダイニングに入って来た。

 「夕食は?ちゃんと食べましたか?」
 「え、いや、まだ」
 「じゃあ、軽く用意しますね。手を洗ったら座っててください」

 そう言って真菜は、冷蔵庫を開けて、何やらキッチンで作り始めた。

 昨日入居したばかりだというのに、もうどこに何があるのか把握しているようだ。

 (俺なんて、まだ勝手が分からないのに)

 そう思っていると、真菜はトレーに載せた料理を運んできた。

 「はい。鯛茶漬けと、お漬物。あとは、私が夕飯に作った肉じゃがも少し。残り物みたいですみません」
 「いや、ありがとう。いただきます」

 真は少し戸惑いながら食べ始める。

 「うん、うまい!」

 そして一気にパクパクと食べていく。

 「真さん、本当にいつも美味しそうに食べますね」

 真菜が、ふふっと笑いかける。

 「いやだって、うまいんだもん」
 「ステーキばっかり食べてる人が、たまに牛丼食べたくなるってやつですかねえ」
 「ん、何だそれ?」
 「セレブあるある、です。もちろん私は庶民なので、逆にステーキ食べたいですけどね」

 真菜の話を聞いているのかいないのか、真はあっという間に平らげてしまった。

 「はー、うまかった」
 「真さん、もう少しゆっくり食べてください。消化に悪いですよ?」

 食後のお茶を出しながら真菜が言う。

 「だって、箸が止まらなくてさ。それより、毎日俺の食事の事は気にしなくていいんだからな?」
 「分かってます。好きにやってるだけですから」
 「そうか、ならいいんだが…」

 お茶をひと口飲んでから、真が話し始めた。