「おじゃまします。誰かいませんか?」


 そう尋ねながら入るが、やはり何も反応がない。
 とりあえず雨が上がるまではここでお邪魔させてもらおうと濡れた上着を脱ごうとすると、視界の端に何かが入る。

 そちらに視線を向けると、そこに短い黒髪の着物を着た可愛らしい顔の少女がいた。


「ひゃぁ!」


 まさか人がいるとは思わず僕は驚きのあまり変な声を出してしまう。


「そんなに驚かなくてもよかろう」


 くすくすと笑って少女が言う。
 その口調は子どもらしからぬものだったが、笑顔は子どもらしい愛らしいものだった。


「あの、すみません。勝手にお邪魔してしまって……。もう出ていきますので」

「出ていかなくてもよい。雨が降っていたのであろう?」

「え、でも……」

「そのままだと体が冷える。風呂が沸いているから入ってくるとよい」


 その申し出はありがたいが、さすがにそこまでは申し訳ないと思い断ると「人の厚意は素直に受け取っておくものだ」と言われ、結局風呂を借りることになる。