その頭にはやはり狐の耳が生えていた。
 それと先程はなかった九本の尻尾もある。


「あの、最初その耳と尻尾を隠していたのはどうしてなんですか?」

「狐の耳と尻尾が生えている少女がいたら、其方が驚くほどかと思ったからじゃ」

「今隠していないのは?」

「もうばれたから隠す必要がなくなったし、隠しているとなんだかむずむずするのじゃ」

「そうなんですね」


 伊鈴さんがいきなり「あ!」と大きな声を出す。


「もう日が沈んできているではないか」


 その声で顔を上げると、確かに日が傾き始めていて、空は綺麗な夕焼けになっていた。

 桜の方に視線を向けると、桜が夕日に照らされて先程とは違う姿を見せる。


「綺麗……」

「そうであろう。夜桜も綺麗なのだが、さすがに其方もうそろそろ帰らないとではないのか?」


 言われてスマホで時間を確認すると、五時半を指していた。

 急いで帰らないと門限に間に合わないと思って、帰ろうとすると、いきなり体から力が抜ける。
 倒れそうになる僕を悠さんが受け止めてくれる。


「今日は楽しかったぞ、圭。でも、ここでのことは忘れてくれ」


 そんな伊鈴さんの言葉を最後に意識をなくす。