○学校

恋愛なんて、本当にくだらないと思っていた。
お互いに好きになって付き合うのなんて、ただの恋愛ごっこ。
愛なんてものは、簡単に崩れてしまう。
俺はそれを身近で見てしまったから。


○(回想)怜の過去・怜の家

怜の母親「ええ、そうよ。壮太さんと一緒に居たわ」
怜の父親「それがどういうことかわかってるのか!?」
怜の母親「ええ。元々あなたが悪いんじゃない。私のことなんて見てもくれていなかったくせに」
怜の父親「なんだと?俺がなんのために必死に働いて……!」
怜の母親「仕事、仕事、仕事。私のことも怜のことも見ていなかったのはあなたよ!」
怜の父親「そうだ。怜のこともあるのにお前って奴は!」

そんな喧嘩が絶えない家庭だった。
俺はまだ小学生。
その当時はなんで両親が喧嘩していたのか、何もわからなかった。
ただただ怖くて、寝室のベッドに潜り込んでその場をやり過ごしていた。
今思えば、本当に俺の家族が崩壊したのは、この日だったと思う。
この数日後、母親は荷物をまとめて家を出て行った。

怜「ねぇ、お父さん。お母さんはー?」

まだ純粋だった俺は、父親にそう尋ねた。

怜の父親「お母さんはもう居ない。この先ずっと俺と一緒だ」

父親は俺にそう言った。
俺は母親に捨てられた。
愛なんてものは脆い。
あっという間に崩れ去る。
永遠の愛を誓ったはずの両親も、母親からの俺への愛も。

それからも、父親は仕事で忙しかった。
朝起きれば、朝ごはんを準備してくれているものの、すぐに仕事へ行ってしまった。
帰りも遅く、俺が寝てから帰ってくることもあった。
父親は本当に仕事人間だった。
俺のことを愛してくれていたのかもわからない。
それくらい仕事一筋だった。

そんな家庭が嫌で、高校は全寮制の学校へ進学し、家を出た。
父親は、そんな俺を止めることもなかった。

(回想終了)


○学校・教室(放課後)

生徒が帰った放課後の静かな教室に怜と女子生徒。

女子生徒「桐嶋くんっ、私、桐嶋くんのことがずっと前から好きでした」
怜「……」

そんな告白を何度聞いただろうか。
怜は静かに聞いていた。

女子生徒「私と付き合ってください」

スカートをキュッと握りしめて告白する女子生徒。

怜「ごめん。俺、今誰とも付き合う予定ないんだよね」

怜はいつものようにそう答える。
そうすると女はいつも目を潤ませていた。

女子生徒「友達からでも.......」
怜「そういう気持たせちゃうの、したくないんだ。ごめんね」
女子生徒「わ、わかった。ごめんね…」

近づく隙も与えない怜に女の子たちは逃げるように怜の元を去っていく。
今日も1人、女を泣かせた。
それは気にしていない。
付き合って彼女を喜ばす気もないのに、告白をオッケーする方がどうかと思う。

怜(はぁ、面倒くさい)

誰も居なくなった教室にため息をついて、教室を後にした。


○学校・裏庭(放課後)

───別の日。
今日もまた告白に呼び出されていた。
場所は校舎の裏庭。
無視することだってできる。
けれど、その方が後々面倒くさそうで、ちゃんと会って断った方が楽だった。

男子生徒1「花咲さんが好きです!まずは友達からでもいいから、付き合ってください!」

裏庭に近づくにつれて聞こえてきた告白の会話。
どうやら先客がいるらしい。
その近くに身を潜めている男子生徒たちがいた。

男子生徒2「上手くいくかな」
男子生徒3「俺は失敗に一票。花咲さんって絶対告白オッケーしないって有名じゃん」
男子生徒4「俺もー」
男子生徒2「案外上手くいくかもしんねーじゃん?アイツ、顔いいし」
男子生徒4「確かにー。でも失敗したら俺らにアイス奢れよ?」
男子生徒2「あぁ、わかったって」

怜(賭け事か、しょうもない。花咲ってアイツか)

花咲の名前だけは知っていた。
俺と同じく告白をよく受けているやつだった。
そして、誰とも付き合わない。

美郷「友達になってくれるのはとっても嬉しいんだけど、付き合うのは……」
男子生徒「ほら、俺、そこそこイケてるし、勉強も運動もできるし!ゆっくりでいいからさ!」

美郷は困っている様子だった。

怜(賭け事で告白なんて、面倒なことに巻き込まれてんな)

怜「ねぇ、困ってんじゃん」

気がついた時には、声をかけていた。

怜「自分たちの賭け事に花咲さん使うのは良くないんじゃない?」
男子生徒「……なっ!」
怜「さっき廊下で聞いちゃったんだよね。誰が花咲さんを落とせるかって?バカじゃないの」
男子生徒「ちっ。じゃあね、花咲さん」

俺が間に入ると、男はすぐに立ち去って行った。
立ち去ったのを確認して、美郷に向き合う。

怜「大丈夫?」
美郷「う、うん。ありがとう」

花咲と話すのはこれが初めてだ。
大抵の女は、俺が声をかけると嬉しそうに駆け寄ってくるのに、花咲は違った。
何を思ったのか、自分でもよくわからない。
本音がポロリと出てきた。

怜「告白って面倒くさいよね」
美郷「えっ?」
怜「だってさ、こっちは付き合う気なんてないのに勝手に告白されて、毎回断るなんて。花咲さんも面倒くさいと思わない?」
美郷「えっと私は……」
怜「あ、そうだ。いいこと考えた」

我ながらいい考えだと思う。
グッと顔を美郷の耳元に引き寄せて呟いた。

怜「俺と付き合って」

付き合っているフリをすれば告白される機会は減るはず。
そうすれば面倒くさいこともなくなる。
そうして付き合い始めた花咲はとても面白いやつだった。
告白をされる回数も多かった花咲は、確かに可愛い。
きっと男慣れもしているんだろうと思っていた。
しかし、それは違った。
ちょっと意地悪をすれば、すぐに顔を赤らめる。
そんな反応を見るのが楽しかった。
そんな美郷に、俺はいつの間にか惹かれていることに気づかなかった。